2013年12月13日金曜日

非選択的beta受容体遮断薬は筋肉の運動能を低下させる!

スポーツ選手に対して降圧薬としてbeta受容体遮断薬を用いる際、いくつかの要素によってスポーツのパフォーマンスが低下してしまう現象が知られています。病態によってはbeta受容体遮断薬が必須である場合もありますが、そうではなく本態性高血圧のみの場合はbeta受容体遮断薬をスポーツ選手に対しては用いづらい印象があります。古い論文ですが、この現象をヒトに対して筋肉の生検をして検討した報告があります。現在では、倫理面から実行が難しいのではないか?と思いますので、非常に貴重な結果です。


Effect of beta 1-selective and non-selective beta-blockade on work capacity and muscle metabolism.
Clin. Physiol. 1986; 6: 197-207.
P. Kaiser, P.A. Tesch, M. Frisck-Holmberg, A. Juhlin-Dannfelt, L. Kaijser.
PMID: 3006981


以下、抄録の要約。

6人を対象とした、二重盲検クロスオーバー試験。
・プラセボ
 非選択的beta受容体遮断薬であるプロプラノロール 40, 80, 160 mg
 選択的beta1受容体遮断薬であるアテノロール 25, 50, 100 mg
 を投与後に、自転車の最大運動により運動能を計測した。
・プラセボ、80 mgプロプラノロール、50 mgアテノロール投与後の運動後、筋肉の生検を行い、以下の値を測定した。
 ATP, クレアチンリン酸, グルコース-6-リン酸(G6P)、乳酸
・結果として、プロプラノロール投与後が最も運動能が低下し、アテノロールもプラセボ群に比較して低下していた。
・プロプラノロール群とアテノロール群において、プラセボ群よりも低下した数値は以下のもの。
 プロプラ群とアテノロール群で同様に低下した:心拍、Vo2max、ATP、クレアチンリン酸
 プロプラ群のみが顕著に低下した:運動能、G6P


2013年12月3日火曜日

けしの実ケーキでドーピング!?

けしの実ケーキとか、ポピーシードケーキといったものがあります。私も好きなケーキの1つですが、けしの実って・・・!!モルヒネが入っていてドーピング違反になったりしないのでしょうか?それをまじめに検討したのが、本論文です。

Urinary concentrations of morphine and codeine after consumption of poppy seeds.
Thevis M., Opfermann G., Schanzer W.
J. Anal. Toxicol. 2003; 27 (1): 53-56.
PMID: 12587685

以下、抄録と論文内容の要約。

・ポピーシード(けしの実)を使ったケーキが商用で存在する。ドイツでは様々な食べ物に入っていることも。
 グーグルの検索結果
・8つの製造元からポピーシードを購入し、GC-MSにて成分検査を行った。
・7つは、0.6-6.9 micro g/gのモルヒネが検出された。1つは151.6 micro g/gのモルヒネが検出された。コデインの含有量は無視できる量であった。
・一番多かったポピーシードを用いてつくったケーキを9人のボランティアに食してもらい、尿中モルヒネ濃度を検出したところ、以下の結果だった。さらなる詳細は論文に記載あり。
 2 時間後 0.06-2.96 micro g/mL
 4 時間後 0.79-8.36 micro g/mL
  6 時間後 0.93-10.04 micro g/mL
 24時間後 0.40-0.99 micro g/mL
・46時間後または48時間後においても、0.20-0.36 micro g/mLのモルヒネが尿中に検出された。

2013年11月15日金曜日

我が国のアスリートのドーピングへの意識の現状は??

スポーツファーマシストは、日本薬剤師会と日本アンチ・ドーピング機構が認定する、世界で唯一のドーピング薬に関する認定薬剤師資格です。いろいろな方へのアンチ・ドーピングの啓蒙なども期待されています。そのため、我が国においてどのような層がドーピングやアンチ・ドーピングに興味を持っているのかなどの実態調査はほとんどありませんでした。今回の報告は、それに関してで、愛媛県のグループからのものです。

Identification of the role of the sports pharmacist with a model for the prediction of athletes' actions to cope with sickness
T. Yamaguchi, I Horio, R. Aoki, N. Yamashita, M. Tanaka, F. Izushi, Y. Miyauchi, H. Araki
Yakugaku Zasshi 2013; 133: 1249-1259.
PMID: 24189566

以下、論文内容の一部を要約。大変興味深い内容が多くあるので、文献に直接あたるのをおすすめします。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/133/11/133_13-00186/_article

・2011年度国民体育大会出場の愛媛県選手260名、四国インカレ出場予定の大学競技スポーツクラブ所属選手105名の系365名を対象としたドーピングに関するアンケート調査。有効回答数は350件。
・全体として、ドーピング認知度が高く、ドーピングに対しても否定的であった。
男性は女性に比べて、ドーピングに対して関心が高いが、その反面アンチ・ドーピング意識も強い。
 >女性選手は男性選手に比べて闘争心・勝利意欲・自信・判断力が低い反面、自己実現・協調性が高いという報告や、男性のほうが女性よりも冷静な判断・精神的強さが高いなどの報告から説明がつくだろう。
・チーム競技選手よりも個人競技選手の方がアンチ・ドーピングの意識が高い。ただし、今回の調査では個人競技者の方が男性の割合が多いため、性別が交絡因子になっている可能性も。
・ロジスティック回帰分析から、年齢が高いほどドーピングに興味を示すと予測される。
軽症時の対応に関して、おおむね「病院を受診」「常備薬を使用」「何もしない」が多く、「薬局で対応」は、ごく少数。
軽症時の薬剤選択に関して、「広告を参考」が最も多く、ついで「薬剤師に相談」・「低価格」が続く。
・セルフメディケーションを行う理由として、「受診時間がない」が多く、ついで「市販薬で十分」がつづく。
・薬剤選択時の相談サービスについては、過半数以上が利用しない。
アンチ・ドーピングの意識が高いほど、
  「病院を受診」が多い
  「薬剤師に相談」が多い
  「薬の相談サービスを利用する」が多い
 と予測される。


2013年11月7日木曜日

OTC薬に含まれるエフェドリンでもドーピング違反!!

エフェドリンやその代謝物は、その興奮作用のために、ドーピング規定で一定濃度以上の検出が禁止されています。これらの物質は、ドラッグストアなどで気軽に購入できるかぜ薬や漢方などにも含有されているため、それを知らずにドーピング違反になってしまう”うっかりドーピング”が問題になっています。さて、ドラッグストアで気軽に購入できる薬(OTC薬)を飲むとどれくらいエフェドリンが検出されるのでしょうか?

*エフェドリンの類縁体としてcathin、プソイドエフェドリン、メチルエフェドリンがあります。
それらのWADA2013, WADA2014での尿中での閾値(この値を超えるとドーピングとされる)は以下のとおり。各自ご確認ください。

エフェドリン、メチルエフェドリン:10 microg/mL
cathine:5 microg/mL
プソイドエフェドリン:150 microg/mL

The relevance of the urinary concentration of ephedrines in anti-doping analysis: determination of pseudoephedrine, cathine, and ephedrine after administration of over-the counter medicaments.
S. Strano-Rossi, D. Leone, X. de la Torre, F. Botre
Ther. Drug Monit. 2009; 31: 520-526.
PMID: 19571776

以下、抄録の要約。

・9人の健常者にエフェドリン含有OTC薬を飲んでもらい、尿中のエフェドリンやエフェドリン関連物質の濃度を測定した。
・その結果、プソイドエフェドリンやcathinの尿中濃度は個人差が大きいことがわかった。この個人差は、体重や性別には依らないものであった。

・プソイドエフェドリンのOTC薬での典型的な投与量は60 mg程度である。
・プソイドエフェドリン60 mg投与により、9人中2人で、尿中に5 microg/mL以上のcathinと100 microg/mL以上のプソイドエフェドリンが検出された。
・プソイドエフェドリン120 mg投与により、7人中4人で、尿中に5 microg/mL以上のcathinが検出された。
・薬物動態学的に平衡状態になるまで120 mgのエフェドリンの投与により、尿中のcachin、プソイドエフェドリンは5 microg/mLおよび100 microg/mLを超えた(ピーク値14.8 microg/mL、275 microg/mL)。
・尿中のエフェドリン関連物質の濃度には非常に幅があるが、尿比重やクレアチニン補正後でもやはり個人差が大きかった。

2013年11月6日水曜日

お酒を飲むと、男性ホルモン摂取を疑われる!?

ドーピングとして規制されている薬物の中には、生体内に存在しているものもあります。例えば、テストステロン。いわゆる男性ホルモンで、筋肉の増強作用によりドーピングとして禁止されていますが、生体内にも存在するホルモンです。ですので、検査の際には摂取したテストステロンなのか、もともと体の中にあった(内在性の)テストステロンなのかを判断する必要があります。そのひとつの指標が、T/E比です。Tはテストステロン、Eはエピテストステロンを表しています。つまり、T/E比とはテストステロンの尿中濃度をエピテストステロンの尿中濃度を割ったものです。この数値が一定以上であると、テストステロンを摂取したのではないか?と疑われます。実はこのT/E比、アルコールの摂取で値が上昇してしまう、というのが本報告です。

Effect of ethanol on the ratio between testosterone and epitestosterone in urine.
O. Falk, E. Palonek, I. Bjorkhem
Clin. Chem. 1988; 34: 1462-1464.
PMID: 3390919

以下、抄録の要約。

・エタノール摂取はT/E比を上昇させる。
4人の健常男性ボランティアにおいて、110-160g(2g/kg体重)の摂取で、尿T/E比が1.14 +/- 0.07から1.52 +/- 0.09へ上昇した。
尿T/E比の上昇率は、30-90%(平均41%)と幅があった。

2013年11月5日火曜日

高血圧や不整脈に使う薬が運動機能を抑制する!

高血圧や不整脈に使われる薬の一つの分類にbeta受容体遮断薬があります。これはbetaブロッカーとも呼ばれるもので、古くから使われている薬です。いろいろな種類があり、それぞれ特徴がありますが、いずれにせよbeta受容体を遮断することにより薬理作用を発揮します。一方、beta受容体の遮断により、手の振戦を抑制することから一部の競技ではドーピング薬として指定されていますが、運動機能への影響は??

Beta-adrenoreceptor blockade and exercise. An update.
M.A. Van Baak
Sports Med. 1988; 5: 209-225.
PMID: 2897710

以下、抄録の要約です。

beta受容体の遮断により、血行動態・代謝・イオンバランスなどに影響がある。
・beta遮断薬投与後、血圧・心拍が減少する。
・強度の強い運動時には、活動している骨格筋への血流も減少する。
・脂肪細胞における脂肪分解や中性脂肪の分解が抑制されるため、エネルギー源である遊離脂肪酸も減少する。
・食事をした場合は血中グルコース濃度は変化ないが、空腹時の高強度の運動ではbeta遮断薬投与により血中グルコースが減少する。
・beta遮断薬投与により血中乳酸濃度はやや低くなる傾向があるが、血中カリウム濃度は上昇する。
・beta遮断薬は、体温調整にも影響を与える可能性がある。
・以上より、高血圧患者でのbeta遮断薬投与により、最大強度の有酸素運動能は減少する。
この運動能減少はbeta1受容体選択的遮断薬よりもbeta受容体非選択的遮断薬の方が顕著に観察されるが、すべてのbeta受容体遮断薬投与により見られるものである。
・一方、心不全患者へのbeta遮断薬投与では運動能は向上する。

2013年10月30日水曜日

クレンブテロールが含まれるお肉の調理後、クレンブテロールはどれくらい残っている??

クレンブテロールは、畜産動物に投与することによって筋肉増強作用を示します。それだけならば問題も少ないのですが、この物質は熱耐性でもあり、調理後の肉にもクレンブテロールが残ってしまいます。これにより、ドーピング違反になったり食中毒になったりと問題が起こります。
ではどれくらいの熱耐性なのか?それを検討した報告です。

The effect of cooking on veterinary drug residues in food: 1. Clenbuterol.
M.D. Rose, G. Shearer, W.H. Farrington
Food Addit. Contam. 1995; 21: 67-76.
PMID: 7758633

題名:家畜に用いた薬物の組織内残渣における調理過程の影響:クレンブテロール

以下、要約。

クレンブテロールは、100℃の水の煮沸に対して安定である。
260℃の油では、半減期5分で分解する。
ボイルやロースト、フライ、電子レンジの調理において、がっちりフライをした以外はすべてクレンブテロールは分解せず残っていた。
・肉汁などにはほとんどクレンブテロールが検出されなかった。
・クレンブテロールは、生肉に均一には検出されなかった。


2013年10月29日火曜日

アスリートでは副作用がでやすい?スタチンの意外な側面

どんなアスリートも、人ですので、いろいろな病気にかかります。脂質異常症で良く使われるスタチンは横紋筋融解症などの骨格筋への副作用が知られていますが、アスリートでの忍容性はどうなのでしょうか。

Professional athletes suffering from familial hypercholesterolaemia rarely tolerate statin treatment because of muscular problems.
H. Sinzinger, J. O'Grady
Br. J. Clin. Pharmacol. 2004; 57: 525-528.
PMID: 15025753

題名:家族性高コレステロール血症のプロアスリートでは、筋肉に関する副作用のためにスタチン治療に対して忍容性が低い

以下、抄録の要約。

筋肉関係の副作用は、スタチンによる副作用の主なものの一つであり、運動中や運動後に起こりやすいことが知られている。
・最近8年間に22人の家族性高コレステロール血症のプロアスリートを観察しており、それぞれ異なったスタチンで治療しようとした。
22人のうち、6人がスタチン治療を継続できた。
スタチン治療を継続できた6人のうち3人は、最初に処方したスタチンで副作用がなく治療継続できた。(ブログ著者注:残りの3人は、副作用があるものの治療継続できたと思われる。)
・スタチンとしては、アトルバスタチン・フルバスタチン・ロスバスタチン・プラバスタチン・シンバスタチンを使用した。
プロアスリートのようなトップスポーツ選手では、スタチン治療を副作用なく受け入れることが出来るのはおおむね20%程度であると考えられる(上述の22人中3人を基に)。

2013年10月28日月曜日

アスリートの高血圧治療で運動持久力が低下する!?

The effects of verapamil and propranolol on exercise tolerance in hypertensive patients.
J. Mooy, M. van Baak, R. Bohm, R. Does, H. Petri, J. van Kemenade, K.H. Rahn
Clin. Pharmacol. Ther. 1987; 41: 490-495.
PMID: 3552358

題名:高血圧患者における運動持続性に対するベラパミルとプロプラノロールの効果

以下、抄録の要約。

試験の概要
・single-blind, placebo-controlled crossover試験
・本態性高血圧の8人の患者を対象。
  ベラパミル 450 +/- 30 mg/day
  プロプラノロール 160 +/- 20 mg/day
・クロスオーバーはランダムに施行。
・運動試験は、エルゴメーターによる自転車運動の持久性試験。

試験の結果
・降圧作用は両群において、同様であった。
ベラパミル、プロプラノロールどちらも心拍数を減少させたが、プロプラノロールがより顕著であった。
・運動持続時間は、
  プラセボ群:57 +/- 11 分
  プロプラノロール群:32 +/- 7分
  ベラパミルは運動持続時間に影響がなかった。
・以上より、プロプラノロールは高血圧患者において、運動耐容能を低下させると考えられる。


2013年10月23日水曜日

毛髪からクレンブテロールを検出!

Hair analysis, a reliable and non-invasive method to evaluate the contamination by clenbuterol.
J.Y. Jia, L.N. Zhang, Y.L. Lu, M.Q. Zhang, G.Y. Liu, Y.M. Liu, C. Lu, S.J. Li, Y. Lu, R.W. Zhang, C. Yu
Ecotoxicol. Environ. Saf. 2013; 93: 186-190.
PMID: 23607973

題名:毛髪分析:クレンブテロール摂取を評価するための信頼性の高い非侵襲的手法

以下、抄録の要約です。

・食用家畜へのクレンブテロールの違法な使用が、今日どんどんと問題になってきている。
・毛髪からLC-MS/MSを用いてクレンブテロール残留を検出方法を開発した。
検出限界は、0.5 ng/gである。
食用豚にクレンブテロールを2週間、340 microg/day投与したところ、クレンブテロール投与終了後1-2ヶ月まで毛から高濃度のクレンブテロールを検出することができた。
クレンブテロール投与終了5ヶ月においても、豚の毛の先端から3.31 ng/gのクレンブテロールを検出できた。
上海在住のボランティアのうち60.3%から、毛髪においてクレンブテロールが検出された(0.05 ng/g以上)。
・以上より、食肉用豚やヒトの毛髪から高い信頼性でクレンブテロールを検出することができた。
・特に上海で供給されている食用豚はクレンブテロールに汚染されているリスクが高いかもしれない。


2013年10月22日火曜日

クレンブテロール摂取の豚には、いつまでクレンブテロールが残っているのか?

Clenbuterol residues in pig muscle after repeat administration in a growth-promoting dose.
J. Pleadin, A. Vulic, N. Persi, N. Vahcic
Mead Sci. 2010; 86: 733-737.
PMID: 20667663

題名:成長促進作用が出現するクレンブテロール量を、ブタに反復投与した際のクレンブテロールの残渣

以下、要約。

クレンブテロールは、20 microg/kg/dayの投与で豚に対して同化作用を発揮する。
・この際のクレンブテロールの薬物動態はあまりわかっていない。
・20 microg/kg/dayを28日間、反復投与し、その直後・3日後・7日後・14日後においてクレンブテロールが豚の筋肉にどの程度、残っているのかを検討した。
断薬直後:4.40 +/- 0.37 ng/g
3日後:0.49 +/- 0.22 ng/g
7日後:0.10 +/- 0.02 ng/g
14日後:すべてのサンプルで0.1 ng/g 未満 = 検出感度以下。
・以上より、クレンブテロールを摂取された豚を食べる場合、豚がクレンブテロールを摂取後7日以内であれば、ヒトもクレンブテロールを摂取してしまう。

2013年10月21日月曜日

信じる者は救われる!?プラセボ薬で競技パフォーマンスが上昇!

"Because I know it will!": placebo effects of an ergogenic aid on athletic performance
M. McClung, D. Collins
J. Sport Exerc. Psychol. 2007; 29: 382-394.
PMID: 17876973

題名:"その薬は効くってわかってるから!": アスリートのパフォーマンスにおける、パフォーマンスを上げる処置のプラセボ効果

以下、抄録の要約

・ドーピング薬が効くと信じているからこそパフォーマンスが上昇するのかもしれないという報告がある。

・「この薬は効くよ!」と伝えた場合と伝えない場合で、プラセボを摂取したアスリートに1000m走ってもらった。

・「この薬は効くよ!」と伝えるとパフォーマンスが上昇したが、何も伝えない場合にはパフォーマンスは上昇しなかった。


薬剤師がスポーツドーピングを勉強する意味はあるのか?

アスリートが薬の相談に来るケースは、現実的にはあまりありません。しかし、私は薬剤師が一つの専門としてスポーツドーピングを勉強する意味があると考えています。

薬剤師の仕事って何だろう?と考えた時、結局のところ、「患者の生活や個性に合わせた薬物治療の最適化・最大化」にいきつくと考えています。その先に患者の笑顔があると信じています。


2013年10月18日金曜日

栄養サプリメントでドーピング!?成分表を信じていいの?

アスリートは、しばしばサプリメントを用いることがあります。もちろん成分表がついていますので、自分でドーピング禁止薬が入っていないか、もしくはスポーツファーマシストなどの専門家が成分表から安全かどうかを判断することは可能です。ただし、その成分表に嘘がなければ・・・。

サプリメントの成分表に嘘があれば、成分表上では禁止薬物が入っていなくても、実は禁止薬物が混入していて、ドーピングになってしまう!なんてことも十分ありえます。

栄養サプリメントの成分表の信ぴょう性を確かめた論文たちの一部をまとめました。他にもたくさん類似の報告はあります。

成分表に未表示で、意図しないドーピングであったと主張したところで、ドーピング違反を免れることはありません。サプリメント選びは慎重に・・・。

それぞれの論文を要約しています。

2013年10月17日木曜日

クレンブテロール摂取後に中毒症状!!2例の症例報告

Myocardial ischemia associated with clenbuterol abuse: report of two cases
D.S. Huckins, M.F. Lemons
J. Emerg. Med. 2013; 44: 444-449.
PMID: 22633759

題名:クレンブテロールの乱用と関係する心筋虚血:2症例の報告

背景:クレンブテロールはアルブテロールと類似の、長時間作用型beta2受容体アゴニストの経口剤であり、近年、ボディービルディングやアスリート界で乱用されてきている。

目的:2人の若い健常男性のボディビルダーがクレンブテロールを乱用し、心筋虚血をおこした2例を報告する。

症例報告:18歳と22歳の2人の男性ボディビルダーがクレンブテロール摂取直後、動悸・吐き気・嘔吐・胸痛・発汗・頻脈により救急部へ搬送された。どちらの患者も洞性頻脈であり、そのうち1人はbeta遮断薬やカルシウムブロッカーに対して比較的抵抗性を示した。どちらの患者も、トロポニンレベルが上昇しており、18歳の患者は最高で4.17 ng/mL(通常、0.04 ng/mL未満)だった。また、その患者は、カテーテル法や心臓MRI検査で、冠動脈に異常は見られなかった。さらに両患者ともエコー上、異常は見られなかった。頻脈は徐々に解消され、無事に回復した。これらの患者の心筋虚血の原因はよくわからない。

結論:救急医は、クレンブテロールの乱用やオーバードーズによる臨床症状に気を付けなければならない。心筋虚血や不整脈といった症状がでることもある。考えられる治療法としては、輸液・酸素吸入・アスピリン・beta遮断薬・ベンゾジアゼピンなどがあるが、効果的かは証明されていない。

2013年10月16日水曜日

デスモプレシンで血漿希釈!?デスモプレシンの隠蔽薬としての顔

Desmopressin and hemodilution: implications in doping
F. Sanchis-Gomar, V.E. Martinez-Bello, A.L. Nascimento, C. Perez-Quilis, J.L. Garcia-Gimenez, J. Vina, M.C. Gomez-Cabrera
Int. J. Sports. Med. 2010; 31: 5-9.
PMID: 19885778

題名:デスモプレシンと血漿希釈:ドーピングへの関与

スポーツにおいて血液ドーピングは物理的なパフォーマンスを上昇させる。これが、アンチ・ドーピング機構が選手に血液検査をする理由である。血漿増量剤は、アンチ・ドーピング規定に抵触するようなことを行った場合の血液学的検査値の人工的な上昇を抑制させることにより、数値をごまかすということで禁止リストに加えられている。

本研究の目的はデスモプレシンが誘導する血漿希釈が血液ドーピングを検出する際に使われる血液学的検査値の濃度を変えるかどうかを検討することである。

本研究は、intra-subject crossover studyとして設計された。

静脈血液サンプルを8人のphysically activeな男性から採取した。

第一回目の採取では、1.5 Lのミネラルウォーターと4.3 microg/kgのデスモプレシンの投与を行った。第二回目の採取では、1/5Lのミネラルウォーターのみの投与を行った。

ヘマトクリット値やヘモグロビン、赤血球数、OFF Hrスコア、グルコース、アルブミン、クレアチニン、総タンパク質を検討した。デスモプレシン投与後では、ヘマトクリット値、ヘモグロビン値、OFF Hrスコアにおいて有意に減少していた。また、グルコース、アルブミン、クレアチニン、総タンパク質では顕著な減少が見られた。しかしながら、本ケースではすべての値が生理的の下限よりもさらに下の値を示した。デスモプレシンの投与は血漿希釈に対して極めて効果的であった。この化合物をWADAの禁止リストへ入れるべきであると考えている。


2013年10月14日月曜日

beta2アゴニストのドーピング薬としての概要

beta2アゴニスト、つまりbeta2受容体作動薬はドーピングの禁止リストに記載されている薬剤です。つまり、この薬を使用するとドーピング違反となります。しかも、競技外時も常にドーピング検査対象です。ただし、薬剤によっては使用可能な場合もあるので、確認が必要です。

beta2アゴニストは、臨床的には喘息によく使われます。
投与してからの作用持続時間によって、長時間作用型はLABA(Long-acting beta agonist)、短時間作用型はSABA(Short-acting beta agonist)などと分類されています。それぞれの喘息治療における立ち位置は別に記載することとして、今回はドーピング薬としてのbeta2アゴニストについて解説します。

2013年10月13日日曜日

FIFA U-17 ワールドカップ2011でのドーピング事件

Adverse analytical findings with clenbuterol among U-17 soccer players attributed to food contamination issues.
M. Thevis, L. Geyer, H. Geyer, S. Guddat, J. Dvorak, A. Butch, S.S. Sterk, W. Schanzer
Drug Test. Anal. 2013; 5: 372-376.
PMID: 23559541

題名:FIFA U-17 ワールドカップ大会におけるクレンブテロールの食べ物への汚染

これまでに、家畜への成長促進剤の使用が高い頻度で報告されてきている。違法的であるが畜産業にメリットが有る成長促進剤のうち、クレンブテロールは成分、薬理作用、代謝、排泄の点で特徴的であると考えられている。特に、家畜動物の食肉部位においてクレンブテロールが蓄積するために、エリート選手がそれを口にするという問題が起こっている。

2011年5月のメキシコ代表サッカーチームへの競技外検査においてクレンブテロールが5件、検出されたことを発端として、FIFAは2011年のFIFA U-17 ワールドカップの開催国であったメキシコでの食物汚染問題について検討を始めた。

同化作用物質の検出を目的に採取した208個のregular doping controlサンプルと、トーナメント中のチームが滞在したホテルで採取した47個の食肉食材サンプルについて、クレンブテロールの含有を検討した。47の食肉食材サンプルの内、14のサンプル(30%)において、クレンブテロールが0.06-11 microg/kgの濃度で検出された。208のregular doping controlサンプルの内109個のサンプル(52%)において、1-1556 pg/mlの濃度でクレンブテロールが検出された。
また、参加24チームのうち、クレンブテロールが検出されなかったのはたった5チームのみだった。そのうちの少なくとも1チームはメキシコのクレンブテロール汚染を知って、厳格にno meatな食事を実施していた。

ドーピング検査サンプルから異常な高頻度でクレンブテロールが検出されたことから、この検出されたクレンブテロールが食事由来のものであることが強く示唆され、どのサッカー選手も制裁されなかった。

しかし、エリート選手は、理由がどうあれ禁止薬剤に対して陽性反応が検出された時には厳しい結果が待っていることを知らなければならない。政府が、畜産業界における違法なクレンブテロールの使用に対して厳正なる対処をとる必要がある。

2013年10月12日土曜日

ジニトロフェノール:命と引き換えにまで痩せたいのか?

2,4-ジニトロフェノール(DNP)は、体を構成する細胞達のエネルギー産生を阻害する物質です。

細胞は通常、ATPという高エネルギー化合物をエネルギーとして使って体を動かしています。筋肉を動かすのにも、細胞が増えるにも必須のエネルギー源です。

このエネルギー源であるATPは、食べ物として摂取する糖(グルコース)や脂肪やアミノ酸の一部から作られます。その作られる方法には2つあります。

ドーピング薬としてのグリセロールは尿検査で検出できるのか?

Urinary excretion of exogenous glycerol administration at rest.
K. Koehler, H. Braun, M. de Mareesm H. Geyer, M. Thevis, J. Mesterm W. Schaenzer
Drug Test Anal. 2011;3:877-882.
PMID: 22012747

 2010年以来、グリセロールは世界ドーピング機構(WADA)により隠蔽薬として規定され、その投与はスポーツにおいて禁止されている。検出方法は存在するが、投与後に尿中に排泄されるかについてはほとんどわかっていなかった。

 14人の訓練された自転車競技者(27.0 +/- 5.4 歳; VO2max: 63.9 +/- 8.5 ml/kg/min)に対して、グリセロール(1 g/kg 体重 + 25 ml 水/kg体重)とプラセボ( 25 ml 水/kg 体重)を投与するクロスオーバー試験を実施した。血液サンプルと尿サンプルは、投与前および投与後2.5時間、4時間、6.5時間において採取した。さらに、尿中サンプルは投与後24時間まで採取した。
 
 グリセロール投与後2.5時間で、尿中グリセロール濃度は10.9 +/- 15.5から、50581 +/- 23821 microg/mlへ上昇した。プラセボ群では、尿中グリセロール濃度は26.8 +/- 31.3 microg/mlを超えなかった。グリセロール投与群における尿中濃度は、16.9 +/- 1.0時間後まで、プラセボ群に対して有意に上昇していた。プラセボと比較して、グリセロール投与群は顕著な体重増加(0.69 +/- 0.42 v.s. 0.27 +/- 0.44 kg; p<0.05)をもたらした。また、尿排泄量を減少させた(972 +/- 379 v.s. 1271 +/- 387 ml; p<0.05)。また、グリセロール投与によってヘモグロビン量(グリセロール投与、-0.60 +/- 0.28 g/dl, -1.7 +/- 0.7%; プラセボ、-0.29 +/- 0.39 g/dl, -0.9 +/- 1.1%)とヘマトクリット値も顕著に減少した。

 以上より、本研究はグリセロール投与後数時間以内で尿中にグリセロールを検出することができることを明らかにした。グリセロール投与後2.5時間の時点でヘモグロビン量やヘマトクリット値が顕著に減少するが、グリセロールによる血漿量増加はプラセボ群との比較ではそれほど重要ではないのかもしれない。


2013年10月11日金曜日

クレンブテロールに汚染された食品摂取による"うっかりドーピング"と意図的なクレンブテロール摂取を見分ける!?

Does the analysis of the enantiomeric composition of clenbuterol in human urine enable the differentiation of illicit clenbuterol administration from food contamination in sports drug testing?
M. Thevis, A. Thomas, S. Beuck, A. Butch, J. Dvorak, W. Schanzer
Rapid Commun. Mass Spectrom. 2013;27:507-512.
PMID:23322656


題名:尿中のクレンブテロールの光学異性を分析することで、クレンブテロールに汚染された食品摂取によるものなのか意図的に摂取したものなのかを判定することは可能なのか?

背景:クレンブテロールは肺疾患においてヒトや動物に承認されている薬である。承認薬であるにもかかわらず、クレンブテロールの成長促進作用を求めて、プロ・アマチュア選手や家畜へのクレンブテロールの誤使用が頻繁に報告されてきている。そのため、クレンブテロールに汚染された食品を食べてしまいクレンブテロールが検出されたのか、意図的にサプリメントとして摂取したのかを判断するストラテジーが求められている。

方法:クレンブテロールを治療量投与した場合の尿中クレンブテロールの光学異性の組成を検討した。治療に用いられるクレンブテロールはラセミ体であるが、(+)体は動物組織に蓄積することが知られているため、治療用クレンブテロールと食品中クレンブテロールに関して検討した。

結果:治療用クレンブテロールを使用した際は少なくとも24時間までは尿中にラセミ体のクレンブテロールが検出された。一方、クレンブテロールに汚染された食品を摂取したと思われる尿サンプルでは、(-)体が少なかった。

結論:クレンブテロールの光学異性の相対量を決定することにより、汚染食品経由のクレンブテロールの摂取を示すことができた。しかし、動物組織における(-)体クレンブテロールの欠除は時間依存的であり、動物がクレンブテロールを摂取してから屠殺までの時間などの要素も考慮に入れなければならず、決定的に判断できるわけではない。


2013年10月10日木曜日

beta2アゴニストは自転車競技においてパフォーマンスをあげるのか?

Inhaled salbutamol does not affect athletic performance in asthmatic and non-asthmatic cyclists.
S. Koch, M.J. Macinnis, B.C. Sporer, J.L. Rupert, M.S. Koehle
Br. J. Sports Med. 2013
PMID: 24100289

題名:吸入サルブタモールは、喘息・非喘息自転車競技社においてパフォーマンスに影響を与えない。

背景:サルブタモールは喘息のあるなしで、呼吸機能や運動パフォーマンスに異なった影響を与えるかもしれない。
目的:吸入サルブタモールの肺機能への影響を比較するために、EVH challengeに陽性であったアスリートと陰性であったアスリートの、自転車運動中の運動パフォーマンスや呼吸機能を検討した。
方法:クロスオーバーRCT試験。EVH陽性14人、陰性35人、計49人のwell-trainedな男性アスリートに対して、サルブタモール400ugまたはプラセボ吸入一時間後、エルゴメーターにて10kmのタイムトライアルを行った。吸入直前と吸入後30分において呼吸機能を測定した。
結果:サルブタモールの吸入によって、プラセボと比べて顕著な肺機能の上昇が見られたものの、運動パフォーマンスには影響を与えなかった。喘息・非喘息ともに有意な差は見られなかった。
結論:喘息・非喘息にかかわらず、サルブタモールの吸入は肺機能を顕著に上昇させるが、運動パフォーマンスの改善にはつながらなかった。EVH challengeの結果に関わらず、サルブタモールは肺の換気機能や運動パフォーマンスに影響を与えなかった。

EVH challenge: スポーツ喘息を診断するための指標。