2013年10月11日金曜日

クレンブテロールに汚染された食品摂取による"うっかりドーピング"と意図的なクレンブテロール摂取を見分ける!?

Does the analysis of the enantiomeric composition of clenbuterol in human urine enable the differentiation of illicit clenbuterol administration from food contamination in sports drug testing?
M. Thevis, A. Thomas, S. Beuck, A. Butch, J. Dvorak, W. Schanzer
Rapid Commun. Mass Spectrom. 2013;27:507-512.
PMID:23322656


題名:尿中のクレンブテロールの光学異性を分析することで、クレンブテロールに汚染された食品摂取によるものなのか意図的に摂取したものなのかを判定することは可能なのか?

背景:クレンブテロールは肺疾患においてヒトや動物に承認されている薬である。承認薬であるにもかかわらず、クレンブテロールの成長促進作用を求めて、プロ・アマチュア選手や家畜へのクレンブテロールの誤使用が頻繁に報告されてきている。そのため、クレンブテロールに汚染された食品を食べてしまいクレンブテロールが検出されたのか、意図的にサプリメントとして摂取したのかを判断するストラテジーが求められている。

方法:クレンブテロールを治療量投与した場合の尿中クレンブテロールの光学異性の組成を検討した。治療に用いられるクレンブテロールはラセミ体であるが、(+)体は動物組織に蓄積することが知られているため、治療用クレンブテロールと食品中クレンブテロールに関して検討した。

結果:治療用クレンブテロールを使用した際は少なくとも24時間までは尿中にラセミ体のクレンブテロールが検出された。一方、クレンブテロールに汚染された食品を摂取したと思われる尿サンプルでは、(-)体が少なかった。

結論:クレンブテロールの光学異性の相対量を決定することにより、汚染食品経由のクレンブテロールの摂取を示すことができた。しかし、動物組織における(-)体クレンブテロールの欠除は時間依存的であり、動物がクレンブテロールを摂取してから屠殺までの時間などの要素も考慮に入れなければならず、決定的に判断できるわけではない。




(感想)

クレンブテロールは、中国やメキシコなどを中心とした国々で、いまだに成長促進剤としてつかわれているbeta2アゴニストです。規則では禁止されているはずなのですが。。。

さらによくないのが、このクレンブテロールが熱耐性であることです。つまり、クレンブテロールを餌に混ぜられた家畜を屠殺して、食品にした後、焼いたとしてもクレンブテロールはその肉に残り続けるということです。

ということは、クレンブテロールを摂取しなくても、クレンブテロールによって育てられた食肉を摂取することによって、結果的にクレンブテロールを摂取してしまうという"うっかりドーピング"が成立してしまいます。このような問題が中国やメキシコで起こっているわけです。

では、食品経由でのクレンブテロールと、意図的にとったクレンブテロールで何か差があれば、"うっかりドーピング"を判断できるのではないか?という観点から進められたのが本論文です。

クレンブテロールを始めとするbeta2アゴニストや、じつはbeta1アンタゴニストはラセミ体で商品化されています。光学異性体が50%で混ざっている状態です。似て非なるものですから、薬理作用や薬物動態は若干異なることもあります。
有名ドコロでは、商品名アーチスト(カルベジロール)でしょうか。片方の光学異性体はalpha遮断作用とbeta遮断作用の両方を有していますが、もう片方の光学異性体はbeta遮断作用しか示しません。トータルで考えるとalpha遮断作用:beta遮断作用=1:8となるわけです。

クレンブテロールの場合は、薬物動態に差があるようです。つまり、(+)体は筋肉に比較的蓄積しやすく、(-)体は比較的蓄積しにくいということです。筋肉とは、まさに食肉用部位です。ですので、食肉経由でのクレンブテロールの摂取では、ラセミ体ではなく(+)体が多いクレンブテロールを摂取している可能性があります。
その観点から検討したところ、治療用クレンブテロール(ラセミ体)では、尿中クレンブテロールはラセミ体でしたが、食品中からの摂取と思われる尿検体では(+)体が多かったという結果でした。

これで、食品経由でのクレンブテロールの"うっかりドーピング"を判断できるようになった!とはまだ言えません。(+)体が筋肉に蓄積しやすいのは事実ですが、投与後からの時間で(-)体との比率が変わってきます。つまり、クレンブテロール投与後から屠殺までの時間によって、筋肉内に蓄積する光学異性体の比率が変わってくるということです。

はっきりとは"うっかりドーピング"を判断できない方法です。しかし、クレンブテロール陽性がでた時に、尿サンプルを検討することによって科学的に食品経由である可能性が高いことを示すことができれば、ドーピング違反による罰に対して多少の酌量措置をとれるかもしれないのかなぁと思います。

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